ADMIN MENU ≫ | IMAGE | WRITES | ADMIN
2006年08月の記事一覧
≪07month
This 2006.08 Month All
09month≫
スポンサーサイト 
--.--.--.-- / --:-- 
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
キャスタ×ホリック  ~夢見るお姫さま 一話~ 
2006.08.30.Wed / 05:40 
乗り合い馬車にしては大きなものだった。
四頭の牝馬が先頭を悠々と闊歩する。馬は皆、まったくと言って良いほど染み一つ見当たらない鮮やかな栗色。
毛並みは素人目にしても艶やかで、縮れ一つない。風を切るたびに髪一本一本が踊るように靡いている。
御者の座席には目が痛むほど真白の軍服を着込んだ兵士が座り、手綱を握り締めていた。
それなりの数の勲章を胸に下げ、肩には金色の紙縒りが宛がわれている。儀式用の軍紀礼装である。
牽引する客室もそれは豪華なもので、深い色の緑をしており、黄色の線で縁取られる。
記号化された狼の紋章が王国ご用達を示していた。
馬車は大麦畑の畦道をがたごとがたごと走る。

「ぅぅああぁ~、揺れるっスね~」
馬車内に数多くある向き合ったビロード地の椅子群のひとつ。
腰窓の傍の椅子に掛けた褐色肌の少女がビブラートのかかった声で独自の音階に乗せて歌う。
年は十代中盤ほど。短く整えられた銀髪が陽光と共に煌く。
黒のタートルネックセーターに下は黒スパッツ。モノクロのバッシュを穿いた健康そうな少女だ。
「静かにしろと言ったはずだ、インレ……。と、言ったのはこれで三度目だ。」
少女インレの向かいに座る二十歳前後の男は硬く目を瞑り、窘める。声色は既に怒気はなく、諦観を帯びていた。
上下をタキシードで包み、濡れたような色をした漆黒のブーツ。ネクタイも黒という葬式帰りのような井出達だ。
「だってだって!お出かけなんて久しぶりっスから~。」
「お出かけじゃない。仕事だ。」
「ボクにとっては似たようなもんっス!ほら、マスターも歌いましょう!」
マスターと呼ばれた男、名をシュウと言う。
彼は頭痛がするのか眉間に皺を深く刻み指を軽く宛がい深く嘆息。
対面の少女は男と真逆に太陽さえ負けを認める眩しい笑顔。
窓に体を乗り出し、奏でていた鼻歌が佳境に入った頃だ。

「さっきからうっせぇぞゴラ!!!黙って乗れねぇのか!!アア゛!?」
床板が話せるなら悲鳴の後に激しい抗議をするくらいに蹴った音と怒声が馬車を駆け巡る。
しんと静まった周囲と対照的に荒く息巻いている大柄の男が居た。
成人男性の中でも一際高背の部類に入るだろう身長の持ち主である。
デニムのズボンに上半身は裸という街中を歩けば一発職質だろう風体。
綺麗に剃られた禿頭は怒り心頭と言うべきか、唐辛子の如く朱に染まっている。
「オラ、テメェだよ黒いガキ!聞いてんのかァ!」
シュウは瞑っていた目を薄く開ける。触れれば切れるのではないかと言うほど鋭い、刃のように研ぎ澄まされた眼光だが、別段睨んでいるわけではない。生まれつきだ。
その視線に大柄の男は一瞬怯むが、立て続けに怒鳴ることにより持ち直した。
「向かいに座ってるお前か!?ガキの保護者はよぉ!」
ダミ声にドスを利かせた、質問と言うより恐喝に近い言葉を投げかける。

だが、受けたシュウは蛙の顔に水を掛けたような平然顔。
「ほら、回りの皆さんにご迷惑だ。ごめんなさい、だろ?」
突然の事態に野原を駆け巡る子供状態から一転、小動物の様に怯えているインレに諭す口調で促した。
「ご、ごめんなさい。」

インレは小さな頭を深く下げた。
普通ならここで終わるかと思われたが、その謝罪では既に大炎上した大男の怒りは沈下出来ないようだった。
「ごめんで済むかいボケがぁ!」
男は警戒していたシュウが案外大人しい性格だと思い付け上がったのだろうか、肩を揺らしながらこちらに歩いてくる。
馬車は広いと言えども、それは馬車の世界でであり、歩けば十数歩で端から端まで到達する。
大柄ということもあり、直ぐにシュウとインレの座席へと到着した。

「ったくよぉ、ここは家族連れで来るトコじゃねぇんだよ。あ?解ってんのか?オイ」
微笑失笑、その類のあざ笑う声。恐らく大柄の男と同じ感想の者達から発されたものだ。
確かにこの馬車の乗員は明らかに偏った人種で構成されていた。
男。
それもどれも皆腕っ節の強そうな者ばかりである。
中には小柄な者も居るが体格は豪く堅強であることが伺える。
二十歳そこいらの細身の青年と十代の少女は此処では明らかにマイノリティであった。

インレは兢々としており、赤いルビーのような目が落ち着きなく揺れる。
幾度もシュウに向けられては逸らすを繰り返している。彼が再び目を瞑り黙しているからだ。
「静かにしろと言ったはずだ、インレ。四度目。」
聞こえるか聞こえないか程度に言うが少女には聞こえていたようだ。
そんなぁ…と呟き、今にも涙が零れる臨界点である。

「おい、聞いてんのかよっ、ガキ!」
馬車内は最早喝采で包まれていた。低い、それでいて下品な声が幾重も発せられる。
それは皆大男を呷る文句であり、止めようとするものはただ一つもない。
気を良くした大柄の男は周囲を見回しアピールするように片腕を大きく一回転。
太い唇の端を歪ませ、筋肉質の腕はインレの胸倉を掴む――

「…手を出すなら話は別だ。そこら辺にしとけ。十分反省しているだろう。コイツには珍しい事なんだ。」
ことはなかった。
男の手首はシュウに握られている。
座ったままで無造作に添えられているだけだ。
乗客の歓声は酣となっており、野卑な単語が踊る。踊る。
対する大柄の男のテンションは、意外にも周囲とは逆。赤色から青色へと変わっていた。
丸太の様に太い筋肉質の腕には血管が浮かび上がり、禿頭には青筋が見えている。
呷り、囃し立てられるが大柄の男はそれに対応することが出来ない。
何故なら握られた腕が寸分も動かないからだ。

「何をしているっ!!」
客室とは隔たれている別室から濃紺の軍服を着た体躯の良い兵士二人が乗り込んできた。
手には室内戦用に近距離対応処置として銃身が詰められた特殊短銃を携えている。
「私闘は禁止されている。やり足りぬのなら牢でやってもらうことになる。」
セーフティーを外した音が鳴り、客室は無音となる。
銃身を向けられたシュウと大男。
シュウは添えていた手を離し二三度はたく。
「失礼。牢は勘弁なのでね。」
「…チッ」
大男は毒吐き元の席へと戻っていった。

彼の手首には一筋の痣が出来ていた。それも古いものではない。
場所はシュウに掴まれていた場所。
「ブッ殺す…。」
男は忌々しげに足元を睨んでいた。


           ■    ■    ■


「足元に気をつけろ。」
「はいっス…。」

馬車は目的地へと到達。
乗客は順繰りに下車し、三々五々と散っていった。
先から俯きを維持し続け、心が所在なさげなインレに注意を促す。
バッシュの踵が石畳をノック。最後の乗員が降りたことを確認した兵士は再び配置に戻り、馬車がまた走りだす。
行方は城門。見上げるほど大きく、見惚れるほど荘厳な門である。

馬車に揺られ、到着したのは城下町。
円形の巨大広場に城。そこから放射状に道が伸び、その両脇に店。
暫く外周へ向かうと民家が目立つというよく整備された拓けた国である。
当然、人通りが少ないということはない。
ただでさえ主要な大通りなのだが、現在は磨きを掛けて賑わいを見せている。
理由。それはとある催し物である大規模な祭りが起ころうとしているからだ。
シュウらはその『催し物』に参加すべく、今ここにいる。

「おい、てめぇ…」
インレが電気が駆け抜けた様に肩を震わせる。
聞いたようなフレーズだが、先の野太い声ではない。
調律が行き届いた楽器を思わせる声だ。
「何だ、ベアトリクスか。」
シュウが振り返るとそこには長身の女性が居た。
成人男子の平均よりもやや背が高いシュウだが、彼女は彼が少し首を上げるぐらいの背である。
長く無造作に伸ばされた炎色の髪は腰まで届く。
右目は隠れているが、左目が異様に燃え上がった色をしている事ならば、恐らく逆もそうなのだろう。
純白のワンピースに所々解れが見える何処かの軍服のジャケットを羽織るというアンバランスな服装だ。
そのまま登山でも出来るのではないかと思える茶のロングブーツはしっかりと大地を踏みしめ、腕を組み、シュウを睥睨。

彼女の横には年は十代中盤だろうか、くすんだ金髪をした中性的な顔立ちの犬耳少年、コタロウが居た。
目的不明の金具がごたごた付いたレザーのパンツ、ジャケット。
大型犬でもしないような刺々しい首輪を付けていて一見アウトローっぽさはあるが、挙動不審の文字がここまで似合う奴は居ない程の顔をしている。
なにやら困った顔でぁぅぁぅ言っているが、まぁいつもの事である。
「何だ、ベアトリクスか…、じゃねぇよ失礼な!!つか、さっきのあれは何だ!?」
「…さっきの?」
「馬車のあれだ!!見ててイライライライライライライラしたっつの!!」

男勝りな口調で怒鳴り散らす長身の女性ベアトリクス。
大柄の男に負けず劣らず激昂している。
「ごめんなさいっス…」
それを見たインレが落とした肩を更に落とし、地獄行きが決定された罪人のような顔で悔いた。
「あっ…あっ…インレのことじゃねぇんだよ。このバカ、あ、シュウな。こいつが不甲斐ないからああなるんだ。うん。絶対そう。決まり。」
「でもマスターは…」
「あたしだったらあのクソ男の鼻っぱしらをグーで一発殴って終わりだぜっ。」
ベアトリクスは腕をL字に曲げ、力瘤を作る動作をするが勿論瘤は出来ない。

「暴力沙汰は流石にまずいってば…ベアトリクス。」
呆れを含んだトーンで、だがバカにはしない、そんな言葉が別方向から投げかけられた。
「なんだ、アイザックかよ。」
「自分はさっき同じような扱いをシュウに受けて怒ってたのにさ…」

アイザックと呼ばれる男性はシュウと同じく二十歳前後なのだが、一見すると十代後半にも見える、そんな男だ。
濃緑の髪は短く刈られ、もみ上げが長く伸ばされそれぞれ円環で括られている。
コインほどのレンズを持つ眼鏡が特徴的である。
横には比較的地味なこげ茶で構成されたエプロンドレスを羽織った少女が居た。
肌はアルビノを超える白。無色を誇る白さである。
髪はアイザックと同じ緑色でボブカットを少し短くした様。
無表情な顔で小首を傾げ、落ち込むアイザックの肩をゆっくりとさする。
「主人様、鰤は今が旬でございます。」

「…ヘルメスの調子は悪くないのか?」
シュウが視線を逸らし困った顔でアイザックに尋ねるが、
「ん?いいや、いつもと同じだよ?」
「そうか…そうだよな…いつもなんだよな…」
「変なシュウだね、ヘルメス。」
「御意。」
ちなみにこの間、ヘルメスと呼ばれた少女は眉一つ動かすことない。

「でもシュウ、あれはちょっと良くなかったかな。インレちゃんが可哀想だった。」
ふとアイザックは真顔に戻る。
常時微笑みを絶やさない彼(気絶時、就寝時含む)が真顔になるのはそうそうない。
それは皆、真剣に忠告してくれるとき。
シュウもそれを察しているらしく、跋が悪そうに唸ってから。一息つく。
「インレ、悪かったな。もっと早く助けるべきだった。」
「ううん、ボクが悪かったっス。マスターは全然悪くないっスよ…。それに、助けてくれたの、嬉しかった…ありがとっス。」

インレの顔にやっと笑顔が戻る。それはぎこちない、はにかんだ、不器用なものだった。
それを見たシュウはくすりと笑い彼女の小さな頭を優しくなでる。
「………まだ時間もある。お出かけは久しぶりだったな。」
間の抜けた音の空砲が立て続けに響く空、色鮮やかな風船が転々と舞っている。
きょとんとしたインレの眼はまん丸に見開かれて、頭にはクエスチョンマークが浮遊中。
「好きなもの買ってやる。一つだけだぞ?」

どうやら配線が繋がったらしく、顔に元気が流れだす。
褐色の頬を火照らせて、赤い瞳はまるで宝石のよう。
「は、は、は、早くっ!早く行きましょうっス!」

目の端にコタロウが物欲しそうにベアトリクスの袖をひっぱり困らせていることや、メイド服のヘルメスが無表情にアイザックの襟を掴んで放さなかったりしているが、この際無視する。

この仕事が終わったらゆっくり街を見せてやるか、とシュウははしゃぐインレを見つつ密かに心に決めたのだった。



▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

久しぶりに書いたなぁ…キャスホリ。
バイトに慣れ、他の事を考えながら仕事が出来るようになってからネタが溜まる溜まる。
それを吐き出してみたりせんとす。

覇道は少し休憩かな
スポンサーサイト
テーマ:連載小説 - ジャンル:小説・文学
覇道高校、新撰組! ~真昼の星 第八幕~  
2006.08.18.Fri / 03:45 
F1をご存知だろうか?
たまにニュースで映像が流れたりするから一度は目にするだろう。
サーキットを周回するごとにタイヤが目減りするのでそれを交換しにピットインするときの光景を思い描いて欲しい。

飛行機レース参加の各学校控え室は、それと似たり寄ったりの雰囲気である。
天井がやや低く、それでいて広い空間だ。
壁が一辺だけ開放されており、庇の下には我が覇道高校エントリーの飛行機が堂々と鎮座している。
なかなかに壮観なのだが、湿度と熱気を兼ね備えた夏特有の空気が入り込むのが少々辟易だ。
頑張れ控え室内の冷房設備。君が吐き出す冷気だけが希望である。

先ほどピットを想像して欲しいと言ったが、あれから喧騒を取り除けば良い按配かもしれない。
真夏にデパートの屋上で仮面ヒーローのショーをやり終えた一団のようにリラックスムードが漂っているからだ。

開会式に代表として出た僕は流石に疲れ、今はパイプ椅子を引きつれ扇風機の前を領地する。
「八神、お茶だ。この天気だ、暑かったろう。」
暑いという単語とは逆、涼やかに立ち振る舞う女性が小さなお盆にちょこんと乗ったグラスを渡してくれた。
長い艶やかな黒髪を首元で一つに結われた房がふわりと揺れ、石鹸の香りが仄かに香る。
日本刀のように鋭い左目と、ヒビの入った様な亀裂が走る右目を持った御堂・つらら先輩だ。

「ありがとうございます。流石に炎天下、立ってるだけで汗が吹き出ますよ、ホント。」
清涼感溢れるガラスの湯のみに冷えた緑茶が満たされていた。さすが先輩、抜かりがない。
漂流者が念願の陸地に立ち、初めて口にする一杯の水の様に勢いよく飲み干す。
「ふふっ、もう一杯飲むか?」
仕方ない奴だ、と言いたそうな優しげな笑顔で聞いてくるので僕はお礼を言いもう一杯ご馳走になることにした。
音もなく、だが堂々と歩む先輩の背中を見送ったのち、壁にかかったアナログ時計を見つめた。
午後十二時。
あと二時間で開幕だ。


逸る心を抑えつつ、ホワイトボードに目を向ける。
先ほど作戦会議と銘打ち舞鬼会長が何処からか持ってきたものだ。
レースの内容はごく簡単である。
複座の小型飛行機にペアで搭乗。
そしてここ、羽田空港から一斉スタートしゴールは南方の大島までの一直線。純粋な速度がものを言う純レースだ。
だがボードに書かれた作戦が「勝て!!」しか記されてないのは大いに危機感が生まれたとしてもそれは致し方ないことだろう。

でも、下が海というのは付け焼刃の飛行技術しかない僕には緊張が少々和らぐ。天空橋さんを疑う訳ではないが、万が一墜落した場合でも死にはしないもんな。
というか、いくら空路を一時買い占めたから一般人でも飛行して良いとは言え、他の学校はちゃんとライセンスを取得している学生が操縦桿を握るんだろうなぁ、ちょっと無謀だろウチは。

自分がそのレースのメインパイロットという現実に嘆息しつつ、我が相棒となる小型飛行機に目を移す。
そこには最終点検を行っている天空橋さんの姿。
頬に描かれている横一文字の真っ黒いオイルの線を拭いもせずに一心不乱。
飛行機が大好きだが、何かに必要に怯え、飛行機に搭乗出来ない少女。
ライセンスは持っていると聞くので、きっと後天的な何かが問題なのだろう。
…君が乗れなくなったのは何故なんだ?

「おいっ、ミコト!」
肩が外れるのではないかと言うほど強く叩かれた。
振り返れば奴が居た。というか奴しか居ない。
茶色い皮ジャケットに白いスカーフ。炎のような真っ赤なスラックスを着込んだ腐れ幼馴染の鮎である。
実はコイツがメインパイロットこと僕の背中を預けるサブパイロットなんだよなぁ、これが。誰か代わってくれないか?
「んだよ、淡水魚!塩かけて焼くぞ!」
「ワケ解んない事言うな。んなことよりこのカッコ見て言うことないの?」
「…もう着てるの?暑くないか?」
「まったく…。コイツは…。」

言わんとしていることは解る。
似合っているか、似合っていないかと聞かれたらこれがなかなか似合うのだ。
馬子にも衣装と言いたいが、こういう皮肉の類は通じないのが奴。
華麗にスルーするのが吉だ。

「ったく暑いなぁ…」
さっそくスカーフを外し、厚手のジャケットを脱いで、僕の扇風機を遮り冷を取る。
やっぱ暑いだろう。というか近くに寄んな、暑い。あと扇風機返せ。

ワレワレハ、ウチュウジン…カ?などと扇風機の前でビブラートを纏い喋る鮎の頭を叩こうとしていたのは幸か不幸か第三者によって遮られた。
「覇道高校様ですね?整備は終わりましたでしょうか?そろそろ機体をお預かりしたいのですが。」
緑色のつなぎに同じ色のツバ付き帽子を被った二人組みの男が現れる。
胸には大会係員の文字が刻まれたプレートが輝いている。
何しろ百校を超えるほどの大会なので、各自に任せスタート位置に機体を置くとなると多少の衝突が起こる事を予期し、ガレージからスタート地点への移動は全て係員に一任される。恐らく彼らはその役員なのだろう。

「あ、もう終わりますん。もうちょい待っててなー。」
独特のイントネーションの天空橋さんは何度か機体の装甲をレンチで軽く叩いてから良し、と呟く。
「オッケーです。では、この子お願いしますわ。」
「はっ。では失礼します。」
男らは帽子を目深に被り一礼。
一人は前輪に縄を結び始め、もう一人は近くに停車させていた小さな牽引車へと乗り込んだ。
しっかりと繋がったか確かめ、結び役の男は再び一礼し牽引車へと乗り込み、ウチの飛行機を伴い飛行場へと消えていった。

天空橋さんは飛行機が見えなくなるまでずっとその光景を見ていた。
テーマ:連載小説 - ジャンル:小説・文学
覇道高校、新撰組! ~真昼の星 第七幕~  
2006.08.04.Fri / 15:19 
太陽は中天に居座り、夏場並みの日差しを容赦なく地上へ注いでいる。
水色の絵の具を白いカンバスに直にぶちまけたのではないかと思える程の青空には先刻からから空砲が立て続けに撃たれており、ポップコーンが弾けた様な軽薄な音と共に白煙が棚引き、そして溶けていく。

暑い。暑すぎる。
地面へ生卵を割り投下すれば目玉焼きが出来るかも危惧する程の炎天下ということもあるが、群衆の中に居ることも熱量が調子に乗る原因の一つではないのか。
僕は今、羽田空港に居る。
空港と聞いて何を想像しただろうか?
クーラーの効いたロビーや絶景が望める展望レストランなどだろうか。残念ながらそんな快適な場所ではない。
では何処だと聞かれれば「滑走路脇のちょっとした広場だよ」としか言いようがなかったりするわけだ。
当然関係者以外の立ち入りなどもっての他な場所であろうが、今は残念ながら関係者なので誰にも咎められはしない。

白学ランや空色のブレザー、黒のワイシャツに赤のネクタイなど、まさに多種多様の制服に身を包んだ生徒らの列の一角を形成している僕は、吐きたくもなるため息をし、やや上へと視線を移していく。
恐らく眼前の光景を描写すれば、今置かれている状況を明瞭簡素に皆さんに解って貰えることだろう。
まずシーツで出来ていたとしたら大病院のベッドを全部剥がす必要がある巨大な横断幕が架かっている。
想像できただろうか?そこにはこう書いてある。思い描いて欲しい。
『第2回メイプルズカップ』とでっかく墨字で染め抜かれている様子を。
そう、今まさに飛行機レース大会の式中であり、会場が貸切の羽田というわけだ。
僕には金持ちが考えることは今後もきっと解らないのだろうな。

庶民の家に生まれたことを再認識しつつ、端から端まで見るのが一苦労な幕からゆっくりと視線を下げると、櫓が組まれているのが見える。
その頂には闇に緑を少量垂らした色のブレザーを纏った女性。生徒会屋敷でSPを連れていた五光院とかいう令嬢だ。今は主催者として壇上へ上っている。
彼女は何本も束ねられた、ちょっとした花束状態の脚付きマイクに向かい高らかに宣言する。
「――今此処に、メイプルズカップ開催を誓います!」
ハウリングと共に怜悧を体現したらこんな感じなのだろうと思える声が響き、そして日差しに溶け亘った。

一瞬、無音がこの世に生を受けたが、後に生まれた轟きにより存在を絶たれる。
皆は味わったことがあるだろうか?周囲のテンションが上がるにつれ、自分の覇気が下がるという反比例の法則だ。
僕が今置かれた状態が今まさにそれ。
また気温が二三度は上昇したのではないだろうかという錯覚を覚えつつ、意識がゆっくりとブラックアウトしていった。


    ■     ■     ■


「ほらっ、ヤガミン!ベルト閉めたっ?飛んでいいっ?」
「ちょっと待ってくださいよ!」
インカム付きの飛行帽から檄が飛んできた。
僕は『覇道舞鬼』と側面にポップ調にペイントされた小型飛行機の副座に深く腰を下ろし固定。側面から二本のベルトを引き抜き、胸でクロスさせてから点対称側へと差し込んだ。
前方の座席にはツインテール用の穴が開いた恐らく特注であろう、ファーが付いた飛行帽を被る舞鬼会長が小さな体を精一杯曲げて振り向き、アヒルの嘴の様に尖らせた口を見せ付けてくる。
「もう、早くしないと大会始まっちゃうぞっ!」
まだ一週間あります。
というより舞鬼会長、何故一週間後の開催の大会の招待状を今日持ってきたんでしょうか、あの令嬢は。いくらなんでも急過ぎやしませんか?
「うーん…、それも挑発のウチだろうね、きっと。覇道の名を冠したならば一週間で飛行機ぐらいつくれるでしょう?って感じかなー。」
なるほど。
「ウチの会社の航空機部門に依頼すれば小型なんて二三時間もあれば鉄鉱石からでも造れるよ。だけどさ――」
舞鬼会長は視線を逸らし、飛行機同好会の部室へと顔を向けた。
大きく開放されたシャッターから内部が見える。天空橋さんは骨組みの機体をせかせかといじっていて、それを手伝っているのだろう鮎と剣信。左蔵は機体の傍に立ち、一言二言、天空橋さんに何かをアドバイスをしている風だ。
つらら先輩も最初は手伝っていたが、次第にクエスチョンマークが飽和状態となり、今は前線を離れお茶を煎れている。
「高所恐怖症なのに飛行機を作っては飛ばし、作っては飛ばしする。怖くても思わずしちゃうくらい飛行機が好きな子が大事に大事に作った飛行機にはきっと敵わないよ。」
子猫のように破顔して笑う。暫くして止み、低いトーンで「最初はね、」と繋ぐ。
「あの子が参加しないならそれはそれで良いと思ってた。」
きっと決めあぐねていたのだろう。大会手続きはしてなかった様子だが、機体の準備はしていた。
部室にポスターを貼っていたし、興味が無いわけではないだろう事は容易に想像がつく。
「…あの子に足りないのはあと一歩を踏み出す勇気なんだよ。」
「天空橋さんから書類を提出されるのを待っていたけど、我慢できなくなり焚きつけた、と?」
「最後の一歩ってさ、大きそうに見えるけど、やっぱりただの一歩なんだよ。…とかなんとか偉そうなこと言ってるけど、あたしのあの子を応援する踏ん切りは五光院ちゃんから挑戦が決め手なんだけどね。」

会長はそのまま天を仰ぐ。二つに結われた栗色の髪が軽やかに揺れた。
部室前の拓けた山の空間。木の葉の囁きが風に乗り聞こえる。
「ねぇ、ヤガミン。あたしこれで良かったのかなぁ…。」
空に問いかけるような、軽い呟き。独り言かと思われるが僕の名前が呼ばれているので答えるべきだろう。
そりゃ、舞鬼会長のやり方はちょっと強引だったかもしれない。けれど間違ったことかと言われれば、僕は首を横に振る。
「天空橋さんは少なくとも悲観してたり迷惑だったりはしてないと思いますよ。」
再び部室を見れば、天空橋さんは忙しそうだが、その表情には陰りが無い。迷いは断ち切られ、今は飛行機作りだけに専念している。
案ずるより産むが易し、と言ったところだろうか。後悔なんてものがあるとすれば、それは名前の通り後にすべきものだ。今は我武者羅に頑張れば良いのさ。

舞鬼会長は顔をやや伏せており、その表情は読み取れない。
僅かに口が動いたようだが、インカムからは何も聞こえてこない。故障か?
そのままエンジンの空蒸かしの音だけが腹に響く。
「よしっ!」
再びインカムから弾む様な声が聞こえてきた。言わずもがな、舞鬼会長から発せられるものだ。
聞こえたことに内心安堵したが、直ぐに聞こえなかったほうが良かったと思い直す羽目になったさ。
「操縦の基本その1!――まずは慣れろっ!」
教習所が真っ青になる程の飛行基礎技術を一週間で叩き込む地獄のフルコースの実質な幕開け宣言だった。

抗議を言い放つ前にプロペラが爆発したかのような唸りを上げて高速回転し、急加速。
後ろに仰け反るほどの重力を一身に受け、慣性の法則はやはり正しいと身をもって再認識する。
次には揚力だ。うろ覚えの理系の数式が頭にちらつく。
即座に諸手を挙げつつ、嘆息。
公式を思い出せなかった事にじゃない。暫く地上の人にはなれないだろうという予想に対してだ。
それが的中したのは態々言う必要は無いだろう。


    ■     ■     ■


「――上、開会式を終了致します!」
あまりの熱気に頭をやられたらしい。軽い走馬灯を見てしまったぞ。
アナウンスで誤謬を吹聴する理由が無いので、開会式は終了したのだろう。
小波のようなざわめきと共に、徐々に人並みが引きつつあるので確かだ。
人の流れは大晦日初詣に向かう人々のごとく一定であり、その方角には臨時で建設された簡易ガレージ群が見える。
参加校が全国から百校は軽く超える数であり、一校ずつに一つの専用ドックがあるので、アスファルトに連なる建物は宛ら近代都市の様だ。
おっと、客観している場合じゃなかった。こうしちゃいられない。
僕はまだ鈍痛が残る頭を被り振り意識蘇生を試みてから、覇道高校に宛がわれた控えガレージへと足早に向かった。





△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

【あとがき】
いろいろ矛盾が生まれてくる頃合です(ひ
ひょっとしたら場面場面に小出しにするべきではなく、短編なら短編を書き終え、編集に編集を重ねてからぶつ切りにしてから、投稿する方が話的にももう少し面白くなるのではないか、と、ひょっとしないことを考えていたりします。










テーマ:連載小説 - ジャンル:小説・文学
| BLOG TOP |

プロフィール

雪都

Author:雪都
name:雪都
age:20
sex:♂
condition:神様、ゲームを最後まで続ける力をください

messenger☆
heart_to_heart_symphony
@hotmail.com

mixi☆
http://mixi.jp/show_friend.pl?id=1880641

カウンター

ペット

フリーエリア

ブロとも申請フォーム

doumei


CopyRight 2006 君と私のクロニクル All rights reserved.

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。