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キャスタ×ホリック  ~夢見るお姫さま 二話~ 
2006.09.05.Tue / 02:56 
比較的小奇麗な宿の廊下、整整と包装された紙箱の山と小麦色の肌をした少女、インレが歩いていた。
箱の山は重い足取りで頼りなく左右前後に揺れているが、彼女は対照的で、足に羽が付いているような軽やかなステップを踏んでいる。
一人と箱の山は廊下の突き当たりで止まった。

「ドアを開けてくれ…」
荷物から声が生まれる。
「はいっス~♪」
インレは警戒に答えつつ、薄緑色をした水晶のアクセサリが付いた鍵でドアを軽やかに開けて道を山に譲った。
千鳥足よろしく歩く荷物の山は当然ドアにすんなりと入ることはなく、縁により盛大に削岩される運命となる。
「あわわわわ」
ボーダーやストライプ、星形などの模様をした包装紙に包まれた箱を必死に落とすまいと奮闘しているインレ。
荷物の山はだいぶ減量に成功しており、目つきの悪い男、シュウが支えているのが見えた。

「ここら辺で良いか」
シュウは抱えていた荷物を文字通り放った。
箱は重いものから軽いものまで、大きなものから小さなものまで雑多なものであったが放物線は全て同じ。
鬱憤が溜まった風船売りが盛大に商売道具をばら撒いたように箱は高くない天井に留まり浮遊していた。

"―――汝、業の重きに跪け"

部屋にシュウの呪詛が響くと、箱は重力を思い出したように落下し始めた。
落ちる箱は軽音や重音などの様々な抗議の声を上げ、先ほどとは違う新たな山と、
「潰れたらどうするっスかぁ!!」
埋もれた少女が抗議を上げる、もう一つの山がドア付近に生まれた。

       ■   ■   ■      

「あっははは、それは大変だったね~」
「人事じゃないだろうが…」
綿のパンツに白いパーカーというラフな井出達のアイザックがベッドに腰掛けて笑う。
あの後、所用があるらしいアイザックとベアリクスの二人と分かれたまでは良かった。
だが、
「あーっと、インレを連れ回すならコタロウも頼めねぇか?」
「ごめん、シュウ。僕のヘルメスも頼めるかな?」
二人の使い魔のお守りまでするとは思わなかった。

「マスター!あの店行きましょうっス!」
「ぁぅ、シュウさん…コタ、あれが見たいです。」
「まぁ、怜悧さがだだ漏れているカブトムシですこと。そう思いませんか、シュウ様?」

城下街の大通り全ての店を網羅したのではと疑うほど練りまわった。
玩具屋は勿論、駄菓子屋に衣類屋、装飾屋や何故か乾物屋にも行った。
カフェで二回ほど休憩を挟んだし、美容院までも覗いた。
おかげで今は夕食の時間というには遅すぎる時間である。

道中、当然お子ちゃま達はお腹空いたの大合唱。
学院に籠もっていてはまず見ることのない三ツ星レストランのウィンドウにへばり付いた三匹を何とか引き剥がし、痛みを通り越してショック死寸前の財布をなんとか守り抜き、今に至る。

「…後でヘルメスの分は請求するからな。」
「あはは、分かってるよ。」
シュウとアイザックは部屋の一角、丘を形成している荷物の山を見た。
そこでは先ほどの使い魔三匹、インレとコタロウ、ヘルメスがわいのわいのと騒いでいる。
包装紙は乱暴に解かれ、床に散乱。見るだけなら正に子供の国といった風情。

インレは真っ白いレオタードに浮き輪とシュノーケルを装備。今は駄菓子に熱心している。
デニムの半ズボンに何故か白のキャミソールを着たコタロウ。異様に似合っているが女物だと言うのは躊躇われた。
ヘルメスは相変わらず暑苦しいゴシックなエプロンドレスを着たままで、老後のハウツー本を読み漁る。

「でっきたぞー!コタ、運ぶの手伝え!」
部屋の端に申し訳程度に設えてあった簡易キッチンで苦心していたベアトリクス。
彼女の部屋から持ってきた、薄ピンク色のエプロンを脱ぎ、ソファーへと放る。
「うんっ!」
コタロウは耳をぴくんと震わせたと思うと厨房へと駆け込み、慣れた手つきで配膳。
宿の女将から借りた大皿に乗った魚介のスパゲティや骨付きリブの盛り合わせ、明らかに人数分以上ある山盛りサラダなど次々と運ばれる。
シュウは駄菓子を貪るインレの頭を軽く叩きテーブルへ着いた。

       ■   ■   ■

「ベアトリクス様作、特製フルコースだ!食らいやがれっ!」
「「「いただきまーす。」」」
「戴こう。」
「戴くね。」
三者三様の挨拶で晩餐が始まる。

ベアトリクスの性格が良く現れた豪快な料理は見た目はそれなりだが、味はと言うと、
「美味しいっス!」
とインレが涙するほど美味であったりするわけである。

「へへっ、ありがとなっ、インレ。」
照れるベアトリクスと餓鬼と化した使い魔三匹。
「さ、シュウ。僕らも食べよう。」
「そうだな。腹が減っては、と言うし、明日に備え食うに越したことはない。」
「うへぇ…仕事の話はなしにしようぜぇ…」
ベアトリクスがうんざりとした顔でシュウに抗議する。

「珍しい。明日のはお前好みの仕事じゃないか。」
「嫌いじゃないけどよぉ、やっぱ飯時は健康な精神で居たいワケよ。」
とベアトリクス。獣の様に骨付き肉を食み、
「ま、私が勝つのは決定事項だけどよ。」
この言葉が癪に障った者が居た。

「か、勝つのはマスターっスよ!」
木の器に山の様に盛ったサラダを抱えつつインレが立ち上がる。
まだ口内に菜っ葉が残っていたのか何度か咀嚼を繰り返しながらだ。
行儀が悪いぞ、とシュウが諌めようとするが、
「ふふん、勝つのはわ・た・しだぜー」
アヒル口になったベアトリクスがインレに向かって先に牽制。
親指を立て、胸に軽く突き刺し誇らしげである。こちらはからかい半分だが、
「違うもん違うもん!マスターが勝つんっス!」
インレは顔が真っ赤。

「くくっ、主人冥利に尽きるね。」
鳩の様に笑い、にんまり顔で小さく耳打ちをしてくるアイザック。
「…うるせっ。」
まだ口論を続けているベアトリクスとインレ。
骨付き肉を持ちながら喧嘩を止めようとするが、肉が気になるのか視線が泳いでいるコタロウ。
無表情、高スピードでライスをかっ込むヘルメス。

そんな光景を見ながらシュウはゆっくりと立ち上がり、
「アイザック、お前の部屋のベッド借りるわ…」
シュウは操られた人形のほうがまだ勢いがあるのではないかと疑うほどの足取りで退出した。


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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学
キャスタ×ホリック  ~夢見るお姫さま 一話~ 
2006.08.30.Wed / 05:40 
乗り合い馬車にしては大きなものだった。
四頭の牝馬が先頭を悠々と闊歩する。馬は皆、まったくと言って良いほど染み一つ見当たらない鮮やかな栗色。
毛並みは素人目にしても艶やかで、縮れ一つない。風を切るたびに髪一本一本が踊るように靡いている。
御者の座席には目が痛むほど真白の軍服を着込んだ兵士が座り、手綱を握り締めていた。
それなりの数の勲章を胸に下げ、肩には金色の紙縒りが宛がわれている。儀式用の軍紀礼装である。
牽引する客室もそれは豪華なもので、深い色の緑をしており、黄色の線で縁取られる。
記号化された狼の紋章が王国ご用達を示していた。
馬車は大麦畑の畦道をがたごとがたごと走る。

「ぅぅああぁ~、揺れるっスね~」
馬車内に数多くある向き合ったビロード地の椅子群のひとつ。
腰窓の傍の椅子に掛けた褐色肌の少女がビブラートのかかった声で独自の音階に乗せて歌う。
年は十代中盤ほど。短く整えられた銀髪が陽光と共に煌く。
黒のタートルネックセーターに下は黒スパッツ。モノクロのバッシュを穿いた健康そうな少女だ。
「静かにしろと言ったはずだ、インレ……。と、言ったのはこれで三度目だ。」
少女インレの向かいに座る二十歳前後の男は硬く目を瞑り、窘める。声色は既に怒気はなく、諦観を帯びていた。
上下をタキシードで包み、濡れたような色をした漆黒のブーツ。ネクタイも黒という葬式帰りのような井出達だ。
「だってだって!お出かけなんて久しぶりっスから~。」
「お出かけじゃない。仕事だ。」
「ボクにとっては似たようなもんっス!ほら、マスターも歌いましょう!」
マスターと呼ばれた男、名をシュウと言う。
彼は頭痛がするのか眉間に皺を深く刻み指を軽く宛がい深く嘆息。
対面の少女は男と真逆に太陽さえ負けを認める眩しい笑顔。
窓に体を乗り出し、奏でていた鼻歌が佳境に入った頃だ。

「さっきからうっせぇぞゴラ!!!黙って乗れねぇのか!!アア゛!?」
床板が話せるなら悲鳴の後に激しい抗議をするくらいに蹴った音と怒声が馬車を駆け巡る。
しんと静まった周囲と対照的に荒く息巻いている大柄の男が居た。
成人男性の中でも一際高背の部類に入るだろう身長の持ち主である。
デニムのズボンに上半身は裸という街中を歩けば一発職質だろう風体。
綺麗に剃られた禿頭は怒り心頭と言うべきか、唐辛子の如く朱に染まっている。
「オラ、テメェだよ黒いガキ!聞いてんのかァ!」
シュウは瞑っていた目を薄く開ける。触れれば切れるのではないかと言うほど鋭い、刃のように研ぎ澄まされた眼光だが、別段睨んでいるわけではない。生まれつきだ。
その視線に大柄の男は一瞬怯むが、立て続けに怒鳴ることにより持ち直した。
「向かいに座ってるお前か!?ガキの保護者はよぉ!」
ダミ声にドスを利かせた、質問と言うより恐喝に近い言葉を投げかける。

だが、受けたシュウは蛙の顔に水を掛けたような平然顔。
「ほら、回りの皆さんにご迷惑だ。ごめんなさい、だろ?」
突然の事態に野原を駆け巡る子供状態から一転、小動物の様に怯えているインレに諭す口調で促した。
「ご、ごめんなさい。」

インレは小さな頭を深く下げた。
普通ならここで終わるかと思われたが、その謝罪では既に大炎上した大男の怒りは沈下出来ないようだった。
「ごめんで済むかいボケがぁ!」
男は警戒していたシュウが案外大人しい性格だと思い付け上がったのだろうか、肩を揺らしながらこちらに歩いてくる。
馬車は広いと言えども、それは馬車の世界でであり、歩けば十数歩で端から端まで到達する。
大柄ということもあり、直ぐにシュウとインレの座席へと到着した。

「ったくよぉ、ここは家族連れで来るトコじゃねぇんだよ。あ?解ってんのか?オイ」
微笑失笑、その類のあざ笑う声。恐らく大柄の男と同じ感想の者達から発されたものだ。
確かにこの馬車の乗員は明らかに偏った人種で構成されていた。
男。
それもどれも皆腕っ節の強そうな者ばかりである。
中には小柄な者も居るが体格は豪く堅強であることが伺える。
二十歳そこいらの細身の青年と十代の少女は此処では明らかにマイノリティであった。

インレは兢々としており、赤いルビーのような目が落ち着きなく揺れる。
幾度もシュウに向けられては逸らすを繰り返している。彼が再び目を瞑り黙しているからだ。
「静かにしろと言ったはずだ、インレ。四度目。」
聞こえるか聞こえないか程度に言うが少女には聞こえていたようだ。
そんなぁ…と呟き、今にも涙が零れる臨界点である。

「おい、聞いてんのかよっ、ガキ!」
馬車内は最早喝采で包まれていた。低い、それでいて下品な声が幾重も発せられる。
それは皆大男を呷る文句であり、止めようとするものはただ一つもない。
気を良くした大柄の男は周囲を見回しアピールするように片腕を大きく一回転。
太い唇の端を歪ませ、筋肉質の腕はインレの胸倉を掴む――

「…手を出すなら話は別だ。そこら辺にしとけ。十分反省しているだろう。コイツには珍しい事なんだ。」
ことはなかった。
男の手首はシュウに握られている。
座ったままで無造作に添えられているだけだ。
乗客の歓声は酣となっており、野卑な単語が踊る。踊る。
対する大柄の男のテンションは、意外にも周囲とは逆。赤色から青色へと変わっていた。
丸太の様に太い筋肉質の腕には血管が浮かび上がり、禿頭には青筋が見えている。
呷り、囃し立てられるが大柄の男はそれに対応することが出来ない。
何故なら握られた腕が寸分も動かないからだ。

「何をしているっ!!」
客室とは隔たれている別室から濃紺の軍服を着た体躯の良い兵士二人が乗り込んできた。
手には室内戦用に近距離対応処置として銃身が詰められた特殊短銃を携えている。
「私闘は禁止されている。やり足りぬのなら牢でやってもらうことになる。」
セーフティーを外した音が鳴り、客室は無音となる。
銃身を向けられたシュウと大男。
シュウは添えていた手を離し二三度はたく。
「失礼。牢は勘弁なのでね。」
「…チッ」
大男は毒吐き元の席へと戻っていった。

彼の手首には一筋の痣が出来ていた。それも古いものではない。
場所はシュウに掴まれていた場所。
「ブッ殺す…。」
男は忌々しげに足元を睨んでいた。


           ■    ■    ■


「足元に気をつけろ。」
「はいっス…。」

馬車は目的地へと到達。
乗客は順繰りに下車し、三々五々と散っていった。
先から俯きを維持し続け、心が所在なさげなインレに注意を促す。
バッシュの踵が石畳をノック。最後の乗員が降りたことを確認した兵士は再び配置に戻り、馬車がまた走りだす。
行方は城門。見上げるほど大きく、見惚れるほど荘厳な門である。

馬車に揺られ、到着したのは城下町。
円形の巨大広場に城。そこから放射状に道が伸び、その両脇に店。
暫く外周へ向かうと民家が目立つというよく整備された拓けた国である。
当然、人通りが少ないということはない。
ただでさえ主要な大通りなのだが、現在は磨きを掛けて賑わいを見せている。
理由。それはとある催し物である大規模な祭りが起ころうとしているからだ。
シュウらはその『催し物』に参加すべく、今ここにいる。

「おい、てめぇ…」
インレが電気が駆け抜けた様に肩を震わせる。
聞いたようなフレーズだが、先の野太い声ではない。
調律が行き届いた楽器を思わせる声だ。
「何だ、ベアトリクスか。」
シュウが振り返るとそこには長身の女性が居た。
成人男子の平均よりもやや背が高いシュウだが、彼女は彼が少し首を上げるぐらいの背である。
長く無造作に伸ばされた炎色の髪は腰まで届く。
右目は隠れているが、左目が異様に燃え上がった色をしている事ならば、恐らく逆もそうなのだろう。
純白のワンピースに所々解れが見える何処かの軍服のジャケットを羽織るというアンバランスな服装だ。
そのまま登山でも出来るのではないかと思える茶のロングブーツはしっかりと大地を踏みしめ、腕を組み、シュウを睥睨。

彼女の横には年は十代中盤だろうか、くすんだ金髪をした中性的な顔立ちの犬耳少年、コタロウが居た。
目的不明の金具がごたごた付いたレザーのパンツ、ジャケット。
大型犬でもしないような刺々しい首輪を付けていて一見アウトローっぽさはあるが、挙動不審の文字がここまで似合う奴は居ない程の顔をしている。
なにやら困った顔でぁぅぁぅ言っているが、まぁいつもの事である。
「何だ、ベアトリクスか…、じゃねぇよ失礼な!!つか、さっきのあれは何だ!?」
「…さっきの?」
「馬車のあれだ!!見ててイライライライライライライラしたっつの!!」

男勝りな口調で怒鳴り散らす長身の女性ベアトリクス。
大柄の男に負けず劣らず激昂している。
「ごめんなさいっス…」
それを見たインレが落とした肩を更に落とし、地獄行きが決定された罪人のような顔で悔いた。
「あっ…あっ…インレのことじゃねぇんだよ。このバカ、あ、シュウな。こいつが不甲斐ないからああなるんだ。うん。絶対そう。決まり。」
「でもマスターは…」
「あたしだったらあのクソ男の鼻っぱしらをグーで一発殴って終わりだぜっ。」
ベアトリクスは腕をL字に曲げ、力瘤を作る動作をするが勿論瘤は出来ない。

「暴力沙汰は流石にまずいってば…ベアトリクス。」
呆れを含んだトーンで、だがバカにはしない、そんな言葉が別方向から投げかけられた。
「なんだ、アイザックかよ。」
「自分はさっき同じような扱いをシュウに受けて怒ってたのにさ…」

アイザックと呼ばれる男性はシュウと同じく二十歳前後なのだが、一見すると十代後半にも見える、そんな男だ。
濃緑の髪は短く刈られ、もみ上げが長く伸ばされそれぞれ円環で括られている。
コインほどのレンズを持つ眼鏡が特徴的である。
横には比較的地味なこげ茶で構成されたエプロンドレスを羽織った少女が居た。
肌はアルビノを超える白。無色を誇る白さである。
髪はアイザックと同じ緑色でボブカットを少し短くした様。
無表情な顔で小首を傾げ、落ち込むアイザックの肩をゆっくりとさする。
「主人様、鰤は今が旬でございます。」

「…ヘルメスの調子は悪くないのか?」
シュウが視線を逸らし困った顔でアイザックに尋ねるが、
「ん?いいや、いつもと同じだよ?」
「そうか…そうだよな…いつもなんだよな…」
「変なシュウだね、ヘルメス。」
「御意。」
ちなみにこの間、ヘルメスと呼ばれた少女は眉一つ動かすことない。

「でもシュウ、あれはちょっと良くなかったかな。インレちゃんが可哀想だった。」
ふとアイザックは真顔に戻る。
常時微笑みを絶やさない彼(気絶時、就寝時含む)が真顔になるのはそうそうない。
それは皆、真剣に忠告してくれるとき。
シュウもそれを察しているらしく、跋が悪そうに唸ってから。一息つく。
「インレ、悪かったな。もっと早く助けるべきだった。」
「ううん、ボクが悪かったっス。マスターは全然悪くないっスよ…。それに、助けてくれたの、嬉しかった…ありがとっス。」

インレの顔にやっと笑顔が戻る。それはぎこちない、はにかんだ、不器用なものだった。
それを見たシュウはくすりと笑い彼女の小さな頭を優しくなでる。
「………まだ時間もある。お出かけは久しぶりだったな。」
間の抜けた音の空砲が立て続けに響く空、色鮮やかな風船が転々と舞っている。
きょとんとしたインレの眼はまん丸に見開かれて、頭にはクエスチョンマークが浮遊中。
「好きなもの買ってやる。一つだけだぞ?」

どうやら配線が繋がったらしく、顔に元気が流れだす。
褐色の頬を火照らせて、赤い瞳はまるで宝石のよう。
「は、は、は、早くっ!早く行きましょうっス!」

目の端にコタロウが物欲しそうにベアトリクスの袖をひっぱり困らせていることや、メイド服のヘルメスが無表情にアイザックの襟を掴んで放さなかったりしているが、この際無視する。

この仕事が終わったらゆっくり街を見せてやるか、とシュウははしゃぐインレを見つつ密かに心に決めたのだった。



▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

久しぶりに書いたなぁ…キャスホリ。
バイトに慣れ、他の事を考えながら仕事が出来るようになってからネタが溜まる溜まる。
それを吐き出してみたりせんとす。

覇道は少し休憩かな
テーマ:連載小説 - ジャンル:小説・文学
キャスタ×ホリック 『バカ野郎に花束を ~最終話~ 』  
2006.06.23.Fri / 05:07 
空には飽きることが無く雲が流れていた。
丘の頂に虹のように架かっていた石のアーチの姿は今は無く、膨大な量の石片が墓標のように風の丘に刺さっている。
瓦礫の中、二つの人影がひょっこりと現れた。
全身黒ずくめのスーツを着込んだ目つきの悪い男が丘を端から端まで見回し一度小さな嘆息をする。
「事故ってことに…ならないよな。」
黒服のシュウの隣にいる体格が良い女――高原の少女に似合うだろう純白のワンピースに陸軍払い下げのジャケットを着込んでいる――ベアトリクスが誰に向けるとなしに答える。
「ま、まぁ、私たちの命と比べれば安い犠牲だって。」
「俺らにアイザックを足したとしても、この遺跡のほうがなんぼか価値があるぞ。」
「…………。」
「…………。」
はっきりと無言が丘に響き渡る。
沈黙が支配者となった中、二人は口を開かず黙々とある地点へと歩き始めた。

その地点は先ほどシュウが連鎖瓦解の魔術を解き放った地点であり、その魔術で出来た巨大なクレーターにバジリコックが落ちた場所でもある。
クレーターにはアーチを形作っていた岩石が積もっていた。それはクレーターに落ちたバジリコックの上にも当然――
「死んだか…?」
「いや、気絶、と言った所か。」
シュウは穴に目を向け、ぴくりとも動かない巨大な爬虫類を確認する。
呼吸はしているようで、緩やかに口から火の粉が舞っていた。
「なら起きたらよ…」
「大丈夫だ。危険と解ればもう近寄らないだろう。痛手を負っているし、目が覚めればきっと巣に帰る。」
「なら…任務完了だな。一時はどうなるかって思ったけどよ」
ベアトリクスは両手を腰のくびれに宛て、空を見上げる。
シュウは背広の裏地に縫いこんだ鞘から隠しナイフを取り出し、クレーターから出ているバジリコックの片腕へと近寄る。
「すまんな、一本貰うぞ。」
「あっ、私のも慰謝料ってコトで!」
「はいはい…」
人一人はゆうに踏み潰せる足から生えた四本の爪。
成人男性の腕ほどの大きさはあるだろうか、その爪の先端を黒塗りのナイフで二本切断した。
「危ないから気をつけろよ。」
シュウは二つ皮袋を取り出し一本ずつ中に仕舞う。
一つを腰に下げ、もう一つをベアトリクスに放り渡す。
「サンキュ♪」
「よし、帰るぞ。」

シュウは踵を返し、丘の下に広がる遺跡へと足を向ける。
ベアトリクスは慌ててシュウを追いかけた。


        ★  ★  ★


「何ゆえ正座させられているか、解るかの?」
鏡面の如く磨かれた大理石の部屋、園長室。
壁の一面だけは前面ガラス張りとなっていて、そこから覗く夕陽が部屋を鮮やかな緋色に染上げる。
床に長い影を伸ばすのは一人の少女だった。
年は十代後半に見えるが言葉遣いがえらく古臭い。
派手な色彩の杖(羽が生えていたり、拳大の水晶が取っ手の部分に付いていたりする)でぺしぺしと手のひらを打ちつつ、悠然と立っている。
見下ろす視線の先には正座をした二人の男女が居た。

「学園長」
男、シュウが仁王立ちする少女に顔を向けるが、その少女はそっぽを向き口を硬く閉ざしている。
「……………お母さん」
「なんじゃ?」
間髪居れず返答する少女。シュウは一旦目を深く閉じ、深呼吸とともに告げる。
「バジリコック退治は成功したのですが」
「…そして丘の『天麒麟の輪』も退治というワケじゃな」
少女は三白眼でそれぞれシュウとベアトリクスを交互に睨め回す。
「バレてたか…」
「ぁぅ…」
「当たり前じゃ!このうつけがぁ!」
少女は杖でばつの悪そうな顔の二人を殴打。
声にならない呻きを上げ、両手で頭を押さえ転がりまわる二人の男女。

「この魔女スカサハの目を誤魔化そうなぞ――」
スカサハの一喝はそこで途切れた。
樫製の重厚な扉がノックされたからだ。
「――入ってよいぞ。」
扉が軋みの悲鳴を上げ、ゆっくりと開かれる。
「失礼します。シュウとベアトリクスが帰還したと聞きましたので。」
ほんわかした表情を浮かべる中性の顔立ちをした男がそこに立っていた。
短く刈られた緑色の髪が夕陽に混ざり、結構エグイ色になっている。
「っつつつつ……アイズか?」
「うん。」
アイズと呼ばれた青年は柔らかな笑顔でシュウに答える。
「えと、先ほどの話ですが…あ、いや、立ち聞くつもりは無かったんですけどね…」
少し申し訳なさそうな顔でアイズ――アイザックは続ける。
「『天麒麟の輪』は僕とシュウとベアトリクスの魔術で直すということで…。もちろん時間は掛かるでしょうが、直して見せます。」
「それは既に決定済みじゃ。怒っているのは隠そうとしたことなのじゃ。」
「あー、それは庇えませんねー。」

もう一度スカサハは杖を振り上げ、大気を裂く低音を纏わせつつ再びシュウとベアトリクスの脳天へと打ち下ろした。
「~~~!!!」
頭蓋から嫌な音が響いたシュウはもんどりうってびくびくと痙攣を起こし、ベアトリクスはもはや動かない。
そんなドメスティックでバイオレンスな躾を見つつ苦笑いのアイザック。
「に…しても…何でアイズが?」
一文字一文字思い出すようになんとか言葉にするシュウ。
アイズはきょとんとした表情で告げた。
「だって、元はといえば僕が悪いんだし…」
「…は?」
「なんじゃ?知らんかったのか?アイザック教師がバジリコック捕獲の為に餌を遺跡に撒いたんじゃが、予期せぬ大物が掛かってしまったというワケでな。」
「いやー、焦ったよ。一人じゃとても太刀打ちできなくて…ってあれれ?」

シュウは幽鬼のようにゆらりと佇んでいた。
ベアトリクスもいつの間にか立ち上がっていて指の関節を鳴らしている。
「二人とも、落ち着こう?ね?ね?」
尋常じゃないほど冷や汗を垂らしているアイズの声は無残に響く。

「貴様が…貴様が…」
「犯人かぁあああああああ!!!!」

シュウとベアトリクスは示し合わせたように皮袋からバジリコックの爪を取り出し、スローイングダガーの要領で投擲。
まるで猛毒を持った二本の爪がアイズの額に深々と刺さった様な形の影が、それはそれは綺麗に床に映ったという。



(おわり)


△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

【あとがき】

雪都「予定より一話増えましたが無事、何事も無く終了です」
コタロウ「それ、無事って言わないんじゃ…」
雪「なんだと!?」
コ「ななななんでもないよ!なんでもない!」
インレ「それよりアイザックさんマズくないっスか?顔色が面白いように紫っス」
コ「嫌ぁあああああ!!!アイザックさん!?アイザックさん!?」
雪「はっはっは、落ち着けみんな。」
イ「逆に考えるっス」
コ「えぐ…ひくっ…ぎゃくにぃ?」
雪「この駄文はコメディで出来ています。」
イ「次の話にはきっとにゅるりと元気になってるっス」
コ「…ほんと?」
イ「だって『あの子』のマスターなんスよ?」
コ「あ、そっかぁ…」
雪「あとがきでアイズの使い魔の複線を書くという、なんともズルイ方法ですが」
イ「いつか始まるキャスホリの話に書かれるんじゃ無いっスか?」
コ「そ、それまでみなさん」
一同「しばしのお別れー!…っス!」
キャスタ×ホリック 『バカ野郎に花束を ~三話~ 』  
2006.06.22.Thu / 04:32 
シュウが目を覚ますと空が見えた。
それはまるで鮮やかな水色のカンバスに所々綿飴を散りばめた様。
彼は違和感を二つほど覚えながら抜けるような蒼穹を見つめていた。
一つめは雲が尋常じゃない速さで流れていること。
二つめは後頭部に定期的に鈍器で殴られるような衝撃と熱が与えられていることだ。
「おい、ベアトリクス。いつから俺はソリにジョブチェンジしたんだ。」
「知るかっ!」
「お前、人様を引きずっといてなんだそれは!?摩擦熱で目を覚ます黄金体験させやがって!!」
「目の前でオオトカゲの餌やりショーなんか見たくなかったんだよ!もういい!じゃあ離す!」

ベアトリクスは大八車のように掴んでいたシュウの両足をパッと離した。
軽くなった所為かそのまま長身の彼女は加速し走り去って行っていく姿が見える。
「痛つつつ…」
慣性で少し距離を追加し引きずられたシュウは後頭部を擦りつつ立ち上がった。擦った方の手のひらを見ても血は付いていない。
(ベアトリクスに殴られて…気絶したのか…。で、そのまま引きずられていた、と。)
半眼でどんどん背中が小さくなるベアトリクスを睨む。
愚痴の一つでも零そうかという時、それは不意に阻まれた。
背後から大地よ裂けろと言わんばかりに振動が起こっていてる。
それはしだいに近づいてきて―――
「きしゅあああぁぁ!」
シュウは声の主、爬虫類王バジリコックを確認もせず、尋常じゃない冷や汗を浮べ全力で驀進した。

ずいぶんと走っただろうか、遺跡の石畳もまばらになってきている。
シュウは踝ほどの長さの草むらを踏みしめ前方を見据えた。
地面はゆっくりと上り坂となっている。
この小高い丘を登れば砂漠地帯へと繋がる。
「そう言えばよ、お前さっき私を制止したよな?何でだ。」
あれからベアトリクスに追いつき今は併走している。
彼女は疲れ一つ見せない顔でシュウを伺い見た。

魔術師はイメージ的に部屋に閉じこもり研究ばかりしていると思われがちだが、実際はかなり肉体の鍛錬も重視している。
研究に対しての体力、スタミナ、精神鍛錬などの目的もあるが、真の目的は魔術が対応できない場面に備えての事だ。
自然の理に揺さぶりをかける魔術は万能ではない。
呪文――声がキーとなる故、声帯を潰されたり、口を塞がれるだけで魔術など使い物にならなくなる。
そんな事態に陥れば、最終的には身体能力に頼るほか無い。
よって魔術師の間では研究と同等に運動にも重きを置いている。

疲れを見せないベアトリクスに対してシュウももちろん例外ではなく、息一つ荒げずに問われた疑問に答えた。
「バジリコックの爪を採ってきて欲しいとアイザックに頼まれたんだ。」
「アイズぅ?」
ベアトリクスは頓狂な声をあげ、一人の男を思い浮かべた。
体格は少し小柄でいつも笑顔は絶やさない奴。シュウと同じく学生時代からの付き合いの男だ。
そのアイズがバジリコックの爪を欲しがっている?
「なんでだ?」
自然と疑問が声に出る。
シュウはそんなことも知らないのか、と言いたそうに嘆息。
「極めて高価なんだ。バジリコックの爪はな。文献にも『剥いだ爪の毒は十年隔てた今でさえ尚分泌され続けている。恐らく恒久的なものではないかと推測される。』と記されている。おおかた、研究にでも使うんだろうさ。」
「…いくらだ?」
シュウは視線をやや上げ、虚空を見つめ軽く唸る。
そしてすらりと伸びた指を何本か立て、数回に渡り形状を変えた。
変わったのはシュウの手だけではなく、ベアトリクスの目の色もそうだった。
「よし、足だけ残して他は焼こう。」
「そこの金に目が眩んだ女、待て待て待て。」

またもや後方に付いてきている大型のトカゲ、バジリコックに手を翳し、魔術を編んでいるベアトリクスをシュウが静止する。
唇を尖らせた不機嫌顔のベアトリクスを一瞥し、
「お前の十八番、炎は効かなかっただろうが…」
「じゃあ、お前の消滅の『可能性』の魔術で足以外消してくれよ。」
「それは無理だ。成功か不成功かだったら成功してみせる。だが足以外消すとなると体液が吹き出るだろう。アイツの体には猛毒が駆け巡っているのを忘れたか?肌に触れるだけで死に至る様な冗談みたいな毒だ。それが断面から勢い良く散布されて見ろ、流石の俺でも死ぬかもしれん。」
「次の論文のテーマが決まったな。未知なる不死魔術の考察 -何処まで適用されるのか-、でどうだ?」
「そんな体当たり的企画嫌だ…」

やりとりをしている間に緩やかな丘の頂に着いた。頂と言っても一番高い場所というだけで大して高度は無いのだが。
丘は展望が良く遺跡を遥かまで見通せる。
反対方向には砂時計の中に入ったらこんな景色なのだろうかと思えるほど砂しかない大地、砂しか見えない雄大な砂漠だった。
追われている立場で無ければシートの一つや二つは広げて弁当でも食べたいと思える、そんな絶景だった。
その頂にはまるで円環が半分埋まったような形をした、とても大きな石製のアーチが架かっている。
見上げればアーチの内側には文様が描かれている。古代の住民の生活の様子にも、小粋なミミズが躍り狂っている様子にも見えた。
恐らくこれは遺跡と砂漠の境界として建てられた門のような物だろう。
砂漠に棲むバジリコックもここを通って来たのか、とシュウは想いを馳せる。

「こっから先は走れねぇな…」
ベアトリクスは苦虫を噛み潰した表情。
砂漠を走るなど装備上自殺行為な上、足を取られロクに進むこともままならないだろう。
地元民のバジリコックに追いつかれるのは予想が容易だ。
「背水の…この場合、背砂の陣という事だな。」
「余裕じゃねぇか、シュウさんよ?」
「そうでも無いさ。まぁ、一つだけ策は有るが。」
「つ、爪は採れるのか?」
「…採れる、だろうけど、食うか食われるかって時に己の身の安全より先に金か…」
「そそそそれよりどんな作戦なんだよ!?」

耳の先端まで真っ赤に染めたベアトリクスを冷ややかな視線で見つめるシュウ。
吊り上がった双眸を細めつつ、作戦を世間話でもする様に告げた。
それを聞いた彼女は眼を見開いたかと思えば口元を緩める。
大きな胸をぼふんと叩き、シュウから離れて行った。
「先に謝っとく、悪いな。」
シュウは後ろをすっと振り返る。
草原の丘に一際目立つこんもりと盛り上がったものが見えた。バジリコックだ。

砂塵を巻き上げ暴走列車のような勢いでこちらに向かってくるのを見据え、シュウは精神を統一する。
(チャンスは一度…悟られるな!)
右手を開き前方に向ける。一度大きく空気を肺に送り込み十分に酸素を蓄える。
バジリコックは前方十メートルを切った。
血走った眼に自分が映っているのを泰然と見つめ、シュウは呪文を紡いだ。

"―――汝、凍れる国の姫と為れ"

辺りを取り巻く大気が一度蠢動。
それは直ちに収まるや、乾いた音が丘に木霊する。
見えない鞭が空を打った時発するような小気味良い音だった。

突如、シュウの手の向けられた方向、ターゲットの色が無くなった。
モノクロになったそれはガラスを踏み割るような音を発てつつ砕け散る。
砕けるのは―――草揺れる大地だった。
そこだけ白黒写真なのでは無いかと思える奇妙な地面。
最初は点ほどだったものが徐々に同心円状に広がって行き、広がるに連れ世界に嫌われたかの如く崩壊する。
異変を感じ取ったのかバジリコックが足を止めるが、既に遅かった。
四本足が支える地面は灰色に染まり、バリン、バリンと叫び陥没してゆく。
バジリコックが悲鳴を挙げる暇も無く、巨大なクレーターに飲み込まれると同時、
「ベアトリクス!今だっ!」
「おうっ!」
シュウから遠い地点からベアトリクスの声は届く。
立つ位置は巨大な石アーチの根元。そのアーチの壁に向かい手を翳している。

"―――無間地獄の柘榴を刻め!"

澄んだ声が響き渡るとベアトリクスの上等なシルク糸を思わせる赤髪が踊る。
不自然なほど強い突風が一瞬吹いただけでもとの静寂が戻る。が、それの静寂は柄の間だった。
アーチの壁には一筋の紅い線が走っていた。
熱した鉄線でスチロールを削った断面に似ていて薄黒い煙が天を目指し昇っている。
異変は音から始まった。
ずり…ずりり…と死体を引きずるような音が鳴ってから、
紅い線が奔った壁が徐々にスライドしていく。
この時点で鳴動は休み無く轟いていた。
石が複雑に組まれて作られているアーチが崩壊を告げている。

「一旦撤収だ!逃げるぞベアトリクス!」
「言われなくても逃げるっつーのぉ!」

シュウとベアトリクスはバジリコックが落ちたクレーターに、アーチを形作る石というか岩が埋まっていくのを確認。
その後直ぐに頭上から降ってくる石の雨を掻い潜りつつ、丘を走り下っていった。


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…終わらなかった。
あっれー、おかしいな。
テーマ:連載小説 - ジャンル:小説・文学
キャスタ×ホリック 『バカ野郎の落書きを』 
2006.06.13.Tue / 02:36 
明日なにげ学校が早いので小説書く時間がなかとです。

でも、なにかしたかったので(?)落書きしましたやっほい。
ということで新キャラ、ベアトリクスの使い魔『コタロウ』きゅんを投下。




雪都(以下、雪):わんこー、わんこー
コタロウ(以下、コ):こ、ここどこっ!?コタ、インレに勉強教わってたのに!
雪:夢じゃ。夢の世界じゃ。英語にするとドリームワールド。
コ:なんだぁ…夢かぁ…ほっ…ってコタ寝てるの!?
雪:夢だけにな
コ:別に落ちてないよっ!
雪:ほらほら、起きないとインレがコタの顔に落書きしそうだぞー
コ:えぇっ!?やだぁ!
雪:おぉ ひげをかかれるとは なさけない
コ:んっ…!だめだぁ!起きれないよ!
雪:夢だけにな
コ:ワケわかんないよっ!
雪:次回で多分、短編『バカ野郎に花束を』終了です。そしてインレはネギを持ってきました。
コ:ね、ネギ!?なんに使うの!?
雪:ではまた明日~
コ:やだぁ~、起~き~れ~な~い~!
キャスタ×ホリック 『バカ野郎に花束を ~二話~ 』  
2006.06.12.Mon / 04:59 
オルムズド大学園。

敷地は峻険なる峰に囲まれた広大なる盆地を半分ほど占め設えられている。
平らかな敷地の中心に一際高い四角柱の塔が建つ。時計塔である。
四角柱の先端には冗談の様に大きな円盤が付いており、一から十二の数字が外周に沿って刻まれていた。
短い針と長い針が各円盤二本付いており、時を刻む。

その時計塔を緩い三日月状に囲んで存在する一際豪華な建物が居住館。
全寮制なので生徒は勿論のこと、上位階には教員も住んでいる。
その居住館を時計塔を挟み対称となって居るのは研究館。
外部構造は居住館と変わらないが、こちらは蔦が巻きついており外壁が少々崩れ歴史を感じさせていた。
柵などは無く、外部との境界を敢えて挙げるなら時計塔を囲む居住館と研究館であるか。
学園の周囲には手付かずの鬱蒼とした森や鏡面の様に空を映す湖。
そして暫く離れたところにはそれなりに大きな街があった。

そんな学園の研究館の一室。
『シュウ教室』と金字で彫られた黒色の表札が掛かる扉を叩く者が居た。
眠たげに端が下がった眼をした長身の男で歳は十代後半。
酸化した黄金を思わせる色の曲がある髪は肩ほど迄伸ばされている。
黒い皮製のジャケットに黒光りした皮パンツにローファーを履いていた。
皮製の衣服には悉く銀の鋲や用途不明のジッパーがごたごたと付く。
首には凶悪な棘が付いた首輪を下げていた。

「はぁ~い、っス!」
扉の向うからは間延びした声がする。
ドアノブがガチャリと回され開き、健康そうな肌の少女が顔を出した。
明らかにサイズが合ってないだぼだぼの深紅のローブを床に引きずりつつ、
「ん?コタロウじゃないっスか。」
「あぅ、インレ…ち、ちょっと時間いいかな?」
コタロウと呼ばれた長身の男はしどろもどろに告げる。

少女のインレは頭を掻きつつ、
「今マスターが出かけてるから、自習任されてるんス。」
「うん…コタもご主人様が居なくて自習任されてるんだ…でも…でもね?」
コタロウは腰に付いたチェーンをじゃらりと音を立て肩を竦める。
長身のコタロウは俯きつつインレの顔を伺い、
「生徒に質問されてね…?それが…わ、解んなくて…聞きに来たんだけど…」
語尾に近づくにつれどんどんと小さくなっていくコタロウの声。
インレは一瞬呆けるような顔をし、一拍おいてため息を付く。

「ごごご、ごめんねっ!ごめんねっ!」
コタロウはぺこぺこと腰を折りインレに何度も頭を下げた。
その度に皮の衣類に付いた金属がジャラジャラと音を鳴らす。
「…主の留守くらい補ってこその使い魔っスよ?」
「うんっ、ごめんね…コタ、駄目な子でごめんね…」
「別に責めてないっスよ。て言うか、泣くな男の子!」
「ひっ!ごめんねっごめんねっ!」
「ぁー…、取り合えず教室の中に入るっスよ。」

インレは大きく扉をあけ、コタロウに中に入るよう促す。
コタロウは眼の端に薄く滲んだ涙を拭い、ぱっと顔を上げる。
側頭部にぴょこんと跳ねている犬耳が揺れた。
「あ、ありがと!インレ!」
「…耳が出てる耳が出てる」
えぇえっ!?っと目を見開き、頭に付いた耳を両手でぺたぺたと撫で付ける長身の男、コタロウ。
インレは半眼でコタロウを見つめた。
「飼い狼は飼い主に…カケラも似ないっスね…」

       ●

「私のために生贄になってくれぇぇえええええええ!!」
「全力で断るわボケぇぇぇぇぇぇええええええええ!!」
忘れられた太古の都、名も無い遺跡に一組の男女と、
「くぅるるるぉおおおおぉぉぉ!!」
一頭のバカでかい爬虫類が一列になって駆け巡っていた。

見渡す限りクリーム色をした石造りの街を一同は破壊の限りを尽くし練り周る。
現代と、いや現代以上に平らかに整備されているのではないかと思える石畳は最後尾の大型爬虫類が踏み砕く。
オオトカゲの高さは十メートル以上、幅二十メートル、全長は三十メートルは在るだろうか。
砂漠の砂のような鮮やかな黄色で処々に灰色の斑点が浮かんでいる。
頭には冠にも見える駁が見える。
バジリコックが爬虫類の王と呼ばれる由縁である。
凶悪な歯が覗く横に広い口からは鞴の様に呼吸が送り出され、それと共に高温の火炎が洩れる。

「ちっくしょう!先手必勝、燃え尽きろ!」
シュウの後ろを走る長身の女性、ベアトリクスが自棄を伴った声を吐き出し右手を後ろでに翳した。
すると周囲の空気が張り詰め、水を注がれた氷のような音が空間に奔る。

"―――三千世界の鴉を殺せ"

「バカっ!やめ…」
シュウの静止も間に合わず、ベアトリクスの掲げた手から幾条もの光の帯が放たれる。
一つ一つが炎上の『可能性』を含んだ熱波である。
視界に入れるだけで眼が焼けるような眩い光を発する熱波の帯はバジリコックの頭部に突き刺さった。
目標を穿ったベアトリクスの魔術は膨れ上がり噴煙を巻き上げ爆砕する。
「ふふん、どんなもんだい。」
ベアトリクスは徐々に走るスピードを落とし、立ち止まる。
シュウも足を止め、もうもうと巻き上がる黒煙を伺い見る。

「最初からこうすれば早く終わったんだよ。楽勝楽勝。」
ベアトリクスは揚がった息を整えつつ、額に浮かんだ汗を手の甲で拭う。
大きく突き上げられた白ワンピースの胸元をぱたぱたと扇いでいた。
身を前に掲げ、上目遣いでシュウに自慢げな顔を向ける。
だがシュウはまだ煙を巻き上げている地点を見つめており、
「いや…残念ながら終わりはもうちょっと先のようだ。」
すっ、と指で示した。

颯々と遺跡を撫でる風が徐々に粉塵を取り除く。
爆発地点から同心円状に瓦礫と化して居たが、一つだけ変わらぬものがあった。
「ぐるるるるるぅぅぅぅぅ……」
濃い金色の目がぎょろりと一回転。
そしてベアトリクスに焦点が向けられる。

「あたしは本気で撃ったぞ!」
「ほう、さすがは砂漠出身。熱いのはなんのその、か。」
「んなんで納得出来るかぁ!」
ベアトリクスはなにやら納得顔のシュウを張り手で倒し叫んだ。

       ●

「そういえば、コタロウのマスター…ベアトリクスさんも居ないんスか?」
シュウ教室。比較的賑やかな自習風景の中、一つの空いた机にノートを広げインレとコタロウがそれを挟むように座っている。
「うん…コタのご主人様は学園長に呼ばれて、おでかけ。」
コタロウは教科書から顔を上げ、インレに向ける。
金色の曲がある毛が生えてた犬耳がぴょこぴょこと揺れている。
インレは眉を寄せるが皺は出来ない。
うーん、と唸り思案顔をし、
「ウチのマスターもさっき学園長に呼ばれたんスよ…」

さぁっ、と二人の顔から血の気が失せ顔色が真っ青になる。
「どどどどどどうしようっ!?」
「どうするも何も…っス」
コタロウのマスター、ベアトリクスと自分のマスターのシュウが犬猿の仲というのはインレも良く知っていた。
別に積年の恨みだとか、親の敵だとか悪意に満ちたものではなく…
(あの二人…水と油っスからねぇ…)
我ながら良い例えだ、とインレは肯く。

「けんかになりませんように…」
「祈るしかないっスね」

長身の体を小さく竦め、手を組み祈っているパンクな服装をした使い魔、金狼のコタロウ。
イスの背もたれに力なく背中を預け、頭を後方に反らし緩いブリッジを描く使い魔、黒ウサギのインレ。
二人のため息が騒がしいシュウ教室に溶けて消える。





△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼


【あとがき】

ホントは二話で終わる予定だったが、コタをどうしても出したかった。
後悔はしていない。まったく。まったくだ。
テーマ:なんかヘンな物語 - ジャンル:小説・文学
キャスタ×ホリック 『バカ野郎に花束を ~一話~ 』 
2006.06.11.Sun / 05:54 
「マザコン」
ぴくり。

見渡す。
視界いっぱいに石畳が広がっている。
見上げる。
底が知れないほど遠くまで青空が広がっている。雲ひとつ無い。
周囲には風化した家屋だったものらしき壁や、見上げるほど大きなアーチ状の天蓋が所々に点在する。
石が敷き詰められた大地の僅かな隙間に生えた雑草や、石版を捲り上げるほど太い根を張った大樹などが既にここが崩壊した街だと主張する。
そこは遺跡だった。

「マザコン~♪マザコン~♪」
ぴくっ。
そんな学者以外は興味も持たない多くの人に忘れられた土地を闊歩する二人の男女が居た。
先ほどから冷や汗をだらだらと流しつつ先頭を歩いているのは上下を黒色スーツに包んだ、まるで葬式帰りを思わせる男だった。
男は生まれつき吊りあがった眼の端を若干痙攣させて足を止め、また歩き出す。

「マザコンだぜ~♪シュウは~♪そりゃあもう無意識に倒置法で強調しちゃうくらい~♪」
音程が滅茶苦茶な即興の歌を唄っているのは長身の女性。
どこからか調達した短い小枝を指揮棒のように振りながら唄っている。
焔色の長髪は束ねられる事無く伸ばされ、腰の辺りで「こんな感じか」と適当に刃物でざっくばらんに切られている。
白いワンピースに体を包み、上に陸軍のジャケットを羽織っている。靴は学園支給品の戦闘用ブーツ。
上着と靴は幸い共通点があるが、まだアンバランスさは拭い去れていない。
そのアンバランスさは顔には適用されておらず、顔立ちは整っている。
片目が前髪で隠されていて、残った意思が強そうな琥珀色の眼は鼠を見つけた猫の様な面白いことを見つけたと言わんばかりの弓形になっている。

「うがぁー!黙れベアトリクス!俺は断じてマザコンではない!あれは…そう!妖精の仕業だ!」
吊り眼のシュウは今日何度も発した抗議の声を張り上げる。
ベアトリクスと呼ばれた長身の彼女はちらりとシュウを一瞥し、また、
「マッ・ザッ・コッ・ンッ~♪」
握った小枝をぶんぶか振り回す。どうやらサビに入ったようだ。

シュウは目頭を押さえつつ熱病患者の様な苦悶の表情を浮かべ唸る。
なぜこんな事態になっているかを検討するために時間を振り返り始めた。

      ●

「さて、俺らは何故魔術を行使できるかという初歩的な問題だが…ポリアンナ言ってみろ。」
「は、はひっ!」
五六人ほど入ればいっぱいいっぱいな小部屋の中に並べられた重厚な木製の机が並ぶ。
机には四人の少年少女が腰をかけていた。
シュウは鋭い視線を長い金髪を持ったその内一人の少女に向けた。
少女はおずおずと立ち上がり、
「えっとえっと、特殊な血統を継いでいるから…ですわ。」
「…そうだ。魔術の素質は先天的なものだ。魔術師の家系でもない一般人が使いたいな、と思おうと100%無理だ。」
シュウはくるりと振り返り黒板に向く。
白墨を手にし、簡易的な木を描きクリスマスツリーの様に小さな丸を五つ飾る。
「魔術が魔術と呼ばれる所以、それは在る物に強制的な揺さぶりを掛け自由に異変を起こすことからそう言われる。」
一つの小さな丸に矢印を伸ばし、
「世界は可能性に満ちてる。燃える可能性、凍る可能性、爆発する可能性、再生する可能性、滅ぶ可能性…まだまだ沢山ある。」
各個丸に『燃』『凍』『爆』『再生』と書き綴り、新たな小さい丸を書きなぐる。
「その小さな、だが目に現れない弱い可能性を掻き集め、具現化させる。それが俺たち魔術師の能力だ。」
木の外部に小さな丸を新たに記し、その丸から木へと矢印を描く。
『燃』と描かれた丸に矢印は集中しシュウは炎の絵で木を包む。
「この可能性を感じるのには各人適正がある。これは性格に起因する。積極的な性格ならば攻撃的な可能性を感じやすいし、博愛的な性格ならば医療的な可能性を感じやすかったりする。だからだな…」

シュウは白墨を置き、マントの様に羽織った深紅の教員用ローブの裾で指に付いた粉を拭く。
再び生徒のほうへ向き直り、
「自分の得意分野を早めに理解し、伸ばすことが重要だ。これはまた後に教えるが、可能性を集め、具現化するに至るスイッチとなるのが呪文だ。これは詠唱者の集中の妨げにならなければどんな言葉でも良い。これも自分に合ったものを考えておけよ。」
分かったか?と言おうとしたシュウは口を閉ざした。
教室の扉を軽くノックする音が聞こえたからだ。

「マスター?授業中失礼っス。お義母様がお呼びっスよ。至急来い、って言ってたっス。」
申し訳ない様に小さな軋んだ音を立てつつ開けられた扉から小麦色の肌をした銀髪の少女が顔を出す。
シュウの使い魔、黒ウサギのインレだった。
黒いタートルネックに下はスパッツ。長い黒靴下に白黒のバッシュを履いている元気の塊のようなオーラを漂わせた少女。
「母さ…学園長が?」
シュウは眉間に皺を寄せ疑問を口にする。
暫く硬直し、目を閉じた。そしてふるふると震えだす。
「嫌な予感が…そこはかとなくあり申さんことものぐるほしけれ。」
「マスター!お気確かにっス!」
シュウに駆け寄ったインレが袖を掴み揺する。
眼は虚ろで首が据わっていない赤ん坊の様に力なく項垂れているシュウの首ががくがくと揺れた。
その光景を黙って(というか口を開け唖然)見守る生徒たち。
「とりあえず行った方が良いっスよ!なんせ『至急』っス!」
「む、『至急』か…。」
両眼に精彩と鋭さが戻るシュウ。
「今日は復活早いっスね。お帰りっス。」
「ただいま。では、そういう事だお前達。すまないが自習していてくれ。インレ、後は頼んだぞ。」
「がってんで!行ってらっしゃいっス!」
軍隊の様だがどこか子供さが残る敬礼をするインレ。
シュウはローブを脱ぎ教壇に設置されたイスに掛け、黒ネクタイの位置を直す。
「『至急』の事態…か…。」
シュウは固唾を飲み込みどこか痛いような表情を浮かべる。
目を閉じ深く考える仕草。ふっ、と息を吐き眼を開く。
覚悟を決めた目だった。

「遅刻したら何をされるか。…行ってくる。」

      ●

「バジリコックの退治を命ずる!」
彩光の取れた大理石の広間。
薄い灰色を宿す石製の部屋扉には『えんちょうしつ』とカラフル+ポップ調のプレートがかかっている。
命令を発するのは小柄な人間だった。
眼はやや吊りあがりどこか楽しそうな表情を浮かべているが別に楽しいというワケではない。この顔が生まれつきだった。
ゴシックな服に身を包んでいるのは十代後半ほどの若い少女だった。
鴉の濡れ羽色の髪は両サイドで括られ腰まで長く伸ばされている。
その少女は体をすっぽりと覆うほど大きな皮椅子に腰掛ていた。
その目線の先には二人の男女が居る。
シュウとベアトリクスだ。

スーツに身を包んだ男、シュウが口を開く。
「学園長…。」
「お母さん、と愛を込めて呼ぶんじゃ!」
「お、お母さん…」
「うむ!」
シュウは横でにやにやと気持ち悪い笑みをしているベアトリクスを睨みつつ言った。
「執行部でも無い俺がなぜ怪物退治など?」
「先日の誘拐事件の罰、じゃなー。一刻も早く助けたいのは分かるが、下手をしたら生徒の身が危ないじゃろうが。」
魔法少女(実際魔法少女なのだが)のようなごたごたと装飾が付いたステッキでぽんぽんと手の平を叩きつつ、
「事態は良いほうに転がったが、もし悪いほうだったら?生徒は死んでいたかもしれんのじゃぞ?」
「…………。」
シュウは目を閉じ、黙して聞き入る。ベアトリクスも真顔で園長を見つめる。
「伊達に会議はしておらん。それに勝手に行動するものが居れば規律が乱れる。」
じゃが、と少女は続ける。
「その気持ち、解らんでもない。妾もお前…シュウが攫われたら、居ても立っても居られないじゃろう。まぁ、攫われる様には教育しておらんがの。」
かかか、と口を開け笑う園長。
イスから降りてシュウの前にぺたぺたと緊張感の無い足音で歩み寄る。
少女の背はシュウの胸ほどの高さでかなり背が小さいことが伺うえた。

「偉いぞ。シュウ。」
少女は背伸びをし爪先立ちで立ちつつ、シュウの頭を危なっかしく撫でる。
シュウは顔を真っ赤に染めてそっぽを向いた。
「じゃが規律は規律。泣いて馬謖を斬る、そのための罰じゃ。」
シュウは首を縦に振り、肯定の意を表す。

「ベアトリクスもベアトリクスじゃ!」
くるりと少女は長身の女性に振り向き睨む。
突然の事にシュウを見つめほくそえんでいたベアトリクスは眼を白黒させ、狼狽する。
「シュウに掴みかかり作業の邪魔をしたと報告が入っておる!討伐隊のお前が荒らしてどうするんじゃ!」
「あうあうあう…」
いつも気丈な態度で男勝りなベアトリクスが言葉を失い項垂れている。
ベアトリクスの半分ほどの身長の園長が両手を腰に宛がい説教している。
そんな不思議な光景を仕返しとばかりにシュウは笑みを浮かべつつ眺めていた。

      ●

意識を再び現代に戻す。
「あの時の仕返しか…つーか、俺は仕返しの仕返しをされている訳か…くそっ!」
「マママママママザコン~♪」
「うっせぇ!!お前もバジリコックをさっさと探せ!!」

バジリコック。正式名バジリスク。
トカゲ亜目バジリスク科。
小さいものでも全長20メートル、大きなものは小山ほどのものが観測されている。
トカゲをそのまま巨大にした風体だが特筆すべきはその猛毒性。
前足後ろ足の爪から分泌される毒は触れるだけで皮膚から体内浸透し死に至るという。
まず常人では相手にすらならないだろう。
爬虫類の王とも呼ばれるバジリコック。
普段は人が立ち寄らない砂漠地帯に住んでいるのだが時折人里に下りてくるのだ。
その度にオルムズド大学園に依頼が舞い降り、魔術師はボランティアとして討伐する。
他にも厄介な事態には魔術師に応援依頼が来る事が頻繁にあるのだが、それはまた別の話。

「って言ってもよぉ~」
ベアトリクスが小枝を振りつつ詰まらなさそうに抗議する。
「私の魔術で焼き払っちゃうか、お前の魔術で消し飛ばしちまえば視界が良くなって良いじゃんよ?」
「駄目なの。遺跡は大切だから傷つけちゃめーなの。」

遺跡は在るだけで良いのだ。
存在することに価値があるからだ。
古いものは希少で存在することだけで十分なのだ。
そんな遺跡になりたい、とシュウは良く分からないことを考えつつ古代人が舗装した石道を歩いていた。

「第一、奴はデカいんだよ。遠目にでも解るはずだ。それを退治ならいざ知らず、捜索する為に破壊したなんてのはだな――」
シュウは首だけ振り返り、後ろを歩いているベアトリクスに顔を向ける。
当の彼女の顔は勉強をやれと親に言われた子供の様に不貞腐れていた。
「だってよ、ここら辺をごっそり焦土にしちゃえばいつの間に倒してたりとかさ?こう、ゴォーって」
彼女が手を横の壁に翳すと綺麗に積み上げられた石の壁の一点が赤く光り、膨れ上がったかと思えばとろとろと溶けていった。
げっ、とベアトリクスは顔を引きつらせて呻き、
「いや、今魔術使う気はなくてだな、こう若きパトスが迸っちまったと言うか…」
ちろちろと残った火を驚愕の目で見つめているシュウに告げる。
怒るだろうな、と予測していたベアトリクスは疑問顔で見返す。

「落ち着いて聞けよ、ベアトリクス。」
シュウは右手の手の平をこちらに翳し静止のジェスチャー、もう片方の手は人差し指を口に当て、黙れの意。
ベアトリクスが再び疑問に思い、聞き返そうとしたとき、思わぬ方向に答えを発見した。
溶解した石壁の向こうからフシュルルルルと沸騰したやかんから蒸気が吹き出るような音が断続的にする。
定期的な音と共にこれまた律儀に火炎がたなびく。
穴から覘くは巨大なこげ茶色の爬虫類。目を閉じた顔はおそらく寝ているのだろう。

「一旦逃げるぞ!」
くるりとシュウは背を向け、恐ろしい速さで逃げていく。
ベアトリクスもハッと我に返り叫ぶ。
「お、置いてくんじゃねぇぇぇぇぇぇぇえええええ!!!」
「ぎゃおおぉぉぉおああううう!!」
彼女の叫び声が響いた一拍後、その後方には高さ十メートルはゆうにある巨大爬虫類が上体を反らし、天へと咆哮を突く。
「バッカ!起きただろうが!」
「知るかぁあ裏切り者ぉ!!」
「うぎゅるるるぉ!!」

シュウの後ろに半泣きで走り寄ってくるベアトリクス。
その後ろに向こう側の景色の色がほんのりと伺える薄い皮膜が付いた翼をはためかせ、石畳を踏み砕きつつ追跡してくる爬虫類王バジリコック。

前代未聞の追いかけっこが今開幕する。





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【あとがき】

雪都(以下、雪):また別の話が始まりましたね。
舞鬼(以下、舞):あたしの話がね!
雪:ちげーよwww
舞:えっ!?
雪:何その顔!?今気づいたの!?
舞:実は園長はあたし!
雪:子持ちかよ!?
舞:…しかもつーちゃんとの子だよ?
つらら(以下、つ):何を言っている阿呆。私はコウノトリには頼んで無いぞ?
雪:ピュアだ…
舞:ピュアだね…
つ:ん?どうかしたか?
テーマ:オリジナル作品 - ジャンル:小説・文学
キャスタ×ホリック ~最終話~ 
2006.05.31.Wed / 05:36 
「うっ…んんっ…」
頭に鈍痛が走る。
目を開くと数多の星が見えた。そよぐ風が肌の熱を冷ます。
遠くから波が寄せるかのように葉擦れの音がする。
深い藍色の空に灰色の雲が流れていた。
背中が冷たい。ということは地面に寝ているのか私は。
何故外に居るのだろう?
目の前が真っ暗になってから記憶が無い。
「ポリアンナ?目が覚めたか?」
霞む目を擦ると段々と焦点が合ってくる。
覗き込むようにして誰かが私を見ていた。
「すまない。運び出す最中に壁にぶつけてしまってな。…お前の頭を。」
その人はすまなそうに大きな手で頭を撫でてくる。
ひんやりとした手が気持ちよかった。
暗くよく見えないが目を凝らす。
その顔は見覚えのあるあの人で…
「シュウだ。解るか?」
「い…」
「い?」
「嫌ぁぁぁぁああああああああああああああああああああ!!!!!!」
亡くなった筈の先生が居た。


「どうしたものか…」
シュウは自分の血で固められた髪を手櫛で梳きつつ呟いた。
眼下には目覚めたはずのポリアンナが再び地面に臥していた。
「そういえば言ってなかったなぁ…。」
学園内の教師連中には知られて居るシュウの"殺されても死なない"体質。
不死概念の魔術らしいが原因は自分でも解っていない。
物心着いた頃には既にその魔術に罹っていた。
実は『不死』は禁呪指定すらされて居ない。
それは成功例が無い故である。…たった一つの例外を除いてだが。
この体質は別段言触らすものでも無いので生徒らには伝えてなかった事を思い出す。
「学園内では危険な目にはよっぽど遭わないからな。態々死んで見せるのもなんだし。」
なんと無しに独白していると、シュウの背後から草むらが踏みしめられる音が。
星明かりを背に大柄な影がシュウを覆う。
「ウチの学園の生徒を襲うとは舐めた真似だぜ!!デストローイ!!」
聞き覚えのある女性の声。
独特の雄雄しい喋り方は―――
「ベアトリク…」
シュウは振り向きつつ声をかける。
そこには右手を此方に掲げた赤髪の女、ベアトリクスが居て、

"―――三千世界の鴉を殺せ!!"

空間が振動しノイズが奔る。
掌から辺りの闇を悉く裂く光の熱波が幾条にも迸り、直線上の木々と地表諸共焼きなぎ払う。
「てめぇぇぇええええええええええええええええええええ!!!!!!」
本日二度目の絶叫が森林に響き渡る。


          ●          ●          ●


「少しは落ち着いたかな?」
「はぃ…ご迷惑をお掛けしましたわ…」
見渡す限り大木の中、一本の街道が通っている。
空にぽっかりと浮いた月と散りばめられた数多の星が辺りを照らす。
草木も眠る時間、三つの影が街道を歩いていた。
ポリアンナを背負ったシュウと不機嫌顔のベアトリクス、苦笑いを浮かべたアイズの三つ。

「何でテメェが居んだよ…」
ベアトリクスがぶっきらぼうに言う。
シュウはアイズを一瞥。アイズは「行く途中にベアトリクスに言った、何度も言ったよ!」とジェスチャー。
「てめぇこそ俺の顔を確認しても魔術撃つとは大した野郎だな。」
「や、野郎じゃねぇよ!」

先ほどベアトリクスが焦熱概念の魔術を放った後、シュウはポリアンナを片手で掴み受身すら取らずに大跳躍。
間一髪で避けた所にもう一発打ち込もうとしたベアトリクスをアイズが文字通り体を張って止めた。
「一回殺させろ!」と喚くベアトリクスの声で目を覚ましたポリアンナがシュウの腕の中で暴れるという大惨事がつい先ほどまで起こっていた。
そんな光景を精鋭部隊の他メンバーが微笑ましく見つめつつ事後処理を買って出てくれた。(恐らく厄介払い)
今頃は伸びている子分どもや、分子崩壊概念の魔術で脅したら失神した頭領も警察へ引き渡されているだろう。

シュウは背中から擦り落ちそうになったポリアンナの位置を正し、
「言わなくてすまなかったな。驚いたろう?」
「はい…今もまだ少しびっくりしてますわ…」
負ぶさったポリアンナは目を閉じシュウの背中に額を当てる。
「…でも、良かったです。生きてらっしゃって。」

静寂。
重苦しい空気ではなく、ゆったりとしたものが流れる。
暫し間を開けシュウが躊躇いがちに口を開き、
「ポリアンナ、試験は残念だった。それと…学園を出るほどキツイ言い方をしていたとは思わなかった。すまない…。」
悔いるように告げた。
ベアトリクスとアイズがポリアンナに目を向ける。
彼女の顔には―――疑問符が浮いていた。
「…なんの事を仰ってますの?」
聞き返されたシュウにもクエスチョンマークが伝染する。
「いや、俺が "実践" 経験が足りないときつく言ったからお前は…」
「ですから "実戦" 経験を積むために郊外に出たのですわ。」
まさか誘拐されるとは思いませんでしたの、ごめんなさいと付け加える。

「…意思疎通がなってねぇなぁ、クソ教師」
「原因は君だね…シュウ」
「えっ?えっ?…なんですの?」

シュウの歩みが止まる。
涼風にゆれる木の葉の音を感じつつ視線を空に上げた。
浮かぶ月はため息をつくほど美しく、星は相変わらず眩しく輝いていた。




~エピローグ~

とある部屋。
様々な大きさの書物が本棚を超え、床にも積まれていた。
窓からは顔を出しかけた太陽が覗ける。
金属音が鳴り真鍮のドアノブが回る。樫製の扉が開いた。
スーツを着た目付きの鋭い男が千鳥足でベッドへ近寄り―――そのままうつ伏せに倒れ込んだ。
「疲れた…」
切れ長の目をゆっくり閉じ様とした時、黒い塊が目の前を横切った。
真っ赤な瞳をもった黒ウサギが首を傾げ顔を伺ってくる。
「インレ…起きてたのか。…人間体にならないのか?」
黒ウサギは首を左右にふるふると振り否定を表す。
「ふんっ…何言ってるか解らん…。」
男は短く嘆息。そのまま呟く。
「ポリアンナは助けた。無事だ。たくさん…たくさん…お礼を言われた。」
黒ウサギがその場で一度跳ねた。
「やはり原因は俺だった。予想してたのとは少々違ったがな。……俺は教師に向いているのだろうか。」
男はベッドの上を転がり仰向けになる。天井を見つめてから長い息を吐く。
一言毒づいてから両手で顔を覆う。
黒ウサギは男の傍まで飛び頬を舐めた。
「くそっ…慰めはいらん…」
男は半回転し、黒ウサギに背を向ける。
「…お前も早く寝ろ。体に障るぞ。俺は寝る。」
黒ウサギは枕の横で丸くなった。
暫くして、二つの寝息が部屋に溶ける。




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【あとがき】

雪都(以下、雪):終わったね…
インレ(以下、イ):終わったっスね…
雪:ちょっと強引になっちゃったなぁ。
イ:明らかな力量不足っスよ。
雪:あるある。つか、毎日書いてみたんだけどあれだね。
イ:なんスか?
雪:前日のを読み返すと「あー!ノリで余計なこと書かなければ良かった!」って思い直すんだよ。
イ:なんでマスターは天井を吹っ飛ばしたのか謎っs
雪:めっ!俺も今は改訂したくてしょうがない。見張りどもは別に外に置いておいても良いs
イ:めっス!凹むと際限ないからこの辺に!
雪:ポリアンナももっと良い子なんだけどね。先生大好きっ子なんだよ。そこら辺をもうちょっと表現したかったなぁ…。
イ:いつか始まる続編に書けば良いっスよ。
雪:アイズやベアの使い魔も考えてるし、生徒諸君も出したいしなぁ…。
イ:キャラ設定も良いっスけど、ちゃんとストーリーも考えましょうっス。
雪:ごめんなさい…。
テーマ:ファンタジー小説 - ジャンル:小説・文学

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